M8i/M8i-flexがドイツの欧州主権クラウドで利用可能に
AWSは、カスタムIntel Xeon 6プロセッサを搭載したAmazon EC2 M8iおよびM8i-flexインスタンスを、AWS European Sovereign Cloud(ドイツ)リージョンで提供開始しました。
AWSの公表値では、従来世代のIntelベースインスタンスと比較して最大15%の価格性能向上、最大2.5倍のメモリ帯域幅を実現しています。また、M7i/M7i-flexと比較して最大20%の性能向上をうたい、ワークロード別では次の改善幅が示されています。
- PostgreSQLデータベースで最大30%高速化
- NGINX Webアプリケーションで最大60%高速化
- AI深層学習レコメンデーションモデルで最大40%高速化
これらはAWSが示すベンチマーク結果であり、実際の効果はインスタンスサイズ、ソフトウェア構成、データセット、I/O、同時実行数などによって変わります。M7iからの移行を検討する際は、単純な世代更新ではなく、ワークロードごとのボトルネックを測定することが重要です。
M7iとM8i/M8i-flexの位置付け
M8i系には、用途の異なる2つの選択肢があります。大まかには、一般的なワークロードでコストと性能のバランスを取りたい場合はM8i-flex、継続的に高いCPU性能を利用する場合や大規模構成が必要な場合はM8iが候補になります。
| 観点 | M8i-flex | M8i |
|---|---|---|
| 主な狙い | 多くの一般用途で価格性能を改善 | 高負荷・大規模ワークロードへの対応 |
| 向いている用途 | Webサーバー、アプリケーションサーバー、マイクロサービス、小中規模データストア、VDI、企業アプリケーション | 高CPU利用が継続する処理、大規模データベース、SAP、大きなインスタンスを必要とする処理 |
| サイズ展開 | largeから16xlargeまでの一般的なサイズ | 13サイズ。96xlargeおよび2つのベアメタルサイズを含む |
| 選定の考え方 | コンピュート資源を常時使い切らないシステムの第一候補 | CPU資源を継続利用するシステムや最大サイズが必要なシステム |
M8i-flexは、利用率にばらつきがある一般的なサービスを移行する際の入口になりやすい構成です。一方、CPU使用率が長時間高止まりするバッチ、データベース、分析処理では、M8iの方が適する可能性があります。
価格性能だけでなく、メモリ帯域幅に注目する
M8iの特徴として見逃せないのが、最大2.5倍とされるメモリ帯域幅です。CPUコア数だけでは性能が伸びにくい処理でも、メモリからデータを読み出す速度がボトルネックになっている場合は改善が期待できます。
たとえば、次のような処理ではメモリ帯域幅が性能に影響することがあります。
- 大きなインメモリデータを繰り返し走査する処理
- データベースのキャッシュやワーキングセットが大きい処理
- 並列度の高い暗号化・圧縮・変換処理
- 機械学習の推論やレコメンデーション処理
- 多数のリクエストを並列処理するWebアプリケーション
ただし、ストレージI/O、ネットワーク、ロック競合、ガベージコレクション、外部API待ちが支配的なシステムでは、インスタンスを更新しても改善幅が限定されます。移行前に、CPU使用率だけでなく、メモリ使用量、ロードアベレージ、I/O待ち、レイテンシ、スループットを確認する必要があります。
PostgreSQLでは「CPU不足」以外の要因も切り分ける
AWSは、M7i/M7i-flexと比較してM8i/M8i-flexでPostgreSQLが最大30%高速化すると説明しています。CPU性能やメモリ帯域幅が効くクエリでは、インスタンス世代の更新が有効な選択肢になり得ます。
一方、PostgreSQLの性能は、次のような要因にも大きく左右されます。
- 実行計画とインデックス設計
- バッファキャッシュに収まるデータ量
- ストレージのスループットとレイテンシ
- 接続数と同時実行数
- ロック競合や長時間トランザクション
work_memなどの設定- レプリケーションやバックアップによる負荷
そのため、M7iからM8iへ移行する場合は、同じデータ量と同等の設定で代表的なクエリを比較します。単一クエリの実行時間だけでなく、ピーク時のトランザクション数、p95・p99レイテンシ、CPU使用率、I/O待ちを測定すると、移行効果を判断しやすくなります。
Java・Spring Bootアプリケーションへの適用
JavaやSpring Bootで構築したWebアプリケーションでは、M8i/M8i-flexへの移行によって、リクエスト処理能力やレイテンシが改善する可能性があります。特に、アプリケーション層でCPU処理が多く、外部依存先の待ち時間が支配的でないサービスは候補になります。
評価時には、次の点を同じ条件で比較します。
- p50、p95、p99のレスポンスタイム
- 秒間リクエスト数とエラー率
- JVMヒープ使用量とガベージコレクション時間
- スレッドプール、コネクションプールの待ち時間
- CPU使用率とロードアベレージ
- コンテナのリソース制限とスケールアウト状況
CPU性能が向上しても、データベース接続待ちや下流サービスのレイテンシが主因なら、アプリケーションの体感性能は変わりません。反対に、JSON変換、暗号化、テンプレート処理、ルール評価などがCPUを消費している場合は、インスタンス更新による効果を捉えやすくなります。
M8i-flexとM8iの選び方
移行先を決める際は、現在のインスタンスサイズをそのまま置き換えるのではなく、実際の利用率から選定します。
M8i-flexを優先しやすいケース
- WebサーバーやSpring Bootなどの一般的なアプリケーション
- マイクロサービスのように負荷が分散しているシステム
- CPU使用率に時間帯による変動があるサービス
- 小中規模のデータストア
- まず価格性能を改善したい既存システム
- 最大サイズやベアメタルが必要ではないワークロード
M8iを優先しやすいケース
- CPU使用率が長時間高いバッチやオンライン処理
- 大規模なデータベースや企業アプリケーション
- SAP認定構成が必要なシステム
- 96xlargeなど大きなインスタンスサイズが必要な処理
- ベアメタル構成を必要とする要件
- メモリ帯域幅や継続的なCPU性能がボトルネックの処理
M8i-flexで始め、負荷特性や性能要件が明確になった段階でM8iへ移行する設計も考えられます。逆に、常時高負荷が予測されるシステムでは、最初からM8iを候補にする方が再設計や再検証の負担を抑えられます。
AWS European Sovereign Cloudでの意味
今回の提供リージョン追加は、欧州のデータレジデンシーや運用要件を持つ組織にとって重要です。ドイツのAWS European Sovereign CloudでM8i系を利用できることで、既存のM7i系ワークロードを、リージョン要件を維持しながら新世代インスタンスへ移行できる選択肢が増えます。
ただし、インスタンスが対象リージョンで利用できることだけで、システム全体のコンプライアンス要件を満たせるとは限りません。設計時には次の領域を含めて評価します。
- アプリケーションデータの保存先
- バックアップやスナップショットの保存先
- ログ、監視データ、メトリクスの保存先
- 障害時の復旧先とレプリケーション先
- 利用するAWSサービスの対応リージョン
- 管理アクセスと運用担当者の権限
- 暗号鍵の保管とライフサイクル
主権クラウド要件では、EC2の配置だけでなく、周辺サービスを含めたデータフローと運用経路を一体で設計することが重要です。
移行前に行うべき評価手順
M7iからM8i/M8i-flexへの移行は、次の流れで進めると判断しやすくなります。
- 過去のメトリクスからCPU、メモリ、I/O、ネットワークのボトルネックを特定する
- 同一世代内での現在のインスタンス利用率とピーク特性を整理する
- M8i-flexとM8iの候補サイズを複数選定する
- 本番に近いデータ量とトラフィックでベンチマークする
- p95・p99レイテンシ、スループット、エラー率、コストを比較する
- Java、PostgreSQL、ミドルウェア、エージェントの動作を確認する
- 段階的な切り替えとロールバック手順を準備する
AWS公表の最大値は、特定条件での性能指標です。自社環境での費用対効果を判断するには、インスタンス料金だけでなく、必要な台数、オートスケーリングの頻度、データベースの処理能力、運用時間を含めて評価します。
まとめ:一律移行ではなく、負荷特性で選ぶ
M8i/M8i-flexは、M7i系からの更新候補として、CPU性能、メモリ帯域幅、価格性能の改善が期待できるインスタンスです。特に、一般的なWeb・アプリケーション用途ではM8i-flexが検討しやすく、継続的な高CPU利用、大規模構成、SAPなどの要件ではM8iが有力です。
移行判断のポイントは、次のように整理できます。
- まずCPU、メモリ帯域幅、I/O、外部依存のどれがボトルネックかを特定する
- 一般用途で利用率に余裕がある場合はM8i-flexを候補にする
- 高CPU利用や大規模構成が必要な場合はM8iを候補にする
- PostgreSQLやJavaアプリケーションは代表的な実ワークロードで比較する
- AWSの公表値と自社ベンチマークを分けて評価する
- 欧州主権クラウドでは、EC2以外のデータ保存先や運用経路も含めて設計する
M7iからの移行は、単なるインスタンスタイプの置き換えではありません。性能カウンタとコストを基に、ワークロードごとにM8i-flexとM8iを使い分けることが、安定した性能改善とコスト最適化につながります。
出典: AWS What’s New
